「バイオエレクトリクス」とは?

 短時間に発生する大電力のことをパルスパワーといいます。パルスパワーを用いると、パルス高電界・磁界、大気圧・液体中プラズマ、衝撃波、超臨界など、非熱平衡状態や高エネルギー密度状態などの極限環境を容易に実現できます。このような極限環境は生体にとって未経験であり、生体をこの環境に曝すことによって新規の生体反応が起こる可能性があります。パルスパワーの生体作用とこれを利用した応用研究をバイオエレクトリクスと呼びます。例えば、パルス電界によってDNAやタンパク質などの生体高分子や細胞内器官に直接ストレスを与えることができます。このストレスによって細胞にアポトーシスを誘導することができ、がん治療に応用可能です。ひょっとすると、細胞分化制御もできるようになるかもしれません。また、大気圧中で生成したプラズマは物体表面の殺菌に利用でき、医療では創傷治療に使われ始めています。さらに、パルスパワーを植物に作用させると、その刺激は成長過程に影響を与え、これを上手く制御すれば農業に利用可能です。このように、バイオエレクトリクスのポテンシャルは計り知れません。



センター長より

 バイオエレクトリクスとは、パルスパワーによって生成される極限状態に曝した生体の反応を調べ、それを上手く制御することによって、産業に応用する研究の総称であり、電気や機械などの工学と、物理学、化学、生物学、医学など、複数の学問領域に跨る新しい研究です。このような極限環境ではユニークな生体反応が起こることがあります。この新規の生体反応とその制御は、バイオ技術、環境、医療、食品、農業など様々な分野で利用できます。
 バイオエレクトリクス研究センター (BERC) は、バイオエレクトリクスを学問的に発展させることと新産業の創出を通して社会に貢献することを目的に、平成19年10月に設立されました。本センターは、基礎バイオエレクトリクス、極限バイオエレクトリクス、環境バイオエレクトリクス、医療バイオエレクトリクス、国際連携バイオエレクトリクスの5つの部門からなり、工学、物理学、生物学、医学など、様々な分野をバックグラウンドとする総勢16名のスタッフによって構成されています。本年4月には、共用棟黒髪3にセンター専用ラボラトリーが開設され、本格的な活動が始まりました。
 バイオエレクトリクスの研究は国際的な枠組みの中で進められています。本学は、センター設置に先立ち、平成17年に米欧2つの研究機関とバイオエレクトリクスに関する研究交流協定を締結しました。これが中心となってバイオエレクトリクス国際コンソーシアムが組織され、以来、会員研究機関は年々増加し8に達しました。コンソーシアムを通して、研究者や学生の派遣や受入れなどのほか、定期的なインターネットミーティングや国際会議の開催など、活発な国際研究活動を行っています。
 今後、本分野において国際的に先導的地位を確立するために、センター構成員の強力な連携の下、教育・研究を進めてまいりますので、皆様方のご理解とご支援をお願い申し上げます。

2009年4月1日
熊本大学バイオエレクトリクス研究センター長 勝木 淳