スサビノリのレトロトランスポゾン遺伝子の活性化

1. はじめに
レトロトランスポゾンは、多くの生物ゲノム中に存在する転移因子であり、組織培養やウイルス感染などの環境ストレスによって活性化されることが多く、また、その転移の際にゲノム上の他の遺伝子を破壊することもあるため、陸上植物における変異体の作出や遺伝子機能解析等の有効手段として注目されている。我々はこのレトロトランスポゾン転移の新たな誘導因子として、水中にて高電界や大電流、衝撃波、紫外線、ラジカルを同時発生できる水中パルスストリーマ放電を提案し、その誘導効果に関する検証を進めた。

2. 研究成果
図19には本研究に用いた水中パルスストリーマ放電容器を、図20にはその断面図を示している。

  図19. 放電容器


  図20. 放電容器の構造

パルスストリーマ放電処理は、滅菌済みの精製水で満たされた放電電極へスサビノリを投入し、その後放電を発生させることで実施した。図21はパルスストリーマ放電処理の有無によるスサビノリの各種レトロトランスポゾン遺伝子の転写状態を確認した結果である(C: 放電処理なし、H&L: 放電処理あり)。


  図21. RT-PCRの結果

これより、パルスストリーマ放電によりPyRE1遺伝子の転写活性が増加していることが確認される。また、これまでにレトロトランスポゾン遺伝子の活性化に対する最適放電処理回数も明らかにしている。図22は放電処理前後のスサビノリ、その葉状体及びその細胞の様子を示している。放電処理前後の植物及び細胞には大きなダメージは認められず、放電処理による植物の成長阻害等の影響はないことが確認された。これらの成果より、水中パルスストリーマ放電は、レトロトランスポゾンの転移を基盤とした新たなスサビノリの変異体作出技術と成りうると考えられる。


  図22. 放電処理前後のスサビノリ、その葉状体およびその細胞の様子

3. まとめ
スサビノリは重要な海産作物として認知されており、近年、海洋植物のモデル実験系としても注目されている。本研究においては、衝撃エネルギーのスサビノリの変異体作出及び遺伝子機能解析ツールとしての応用展開が示唆された。なお、現在、電界、電流、衝撃波、紫外線、ラジカルの個々の活性効果を調査中であり、水中パルスストリーマ放電によるレトロトランスポゾン遺伝子の活性化メカニズムの解明が待たれる。